久し振りなせいもあるが、いつになっても挿れられる時の感覚には慣れない。
小さな入り口を広げられ、熱い肉で狭い道を喰い荒らされる。肉と肉が擦れ、引きずられ、辛いと感じると同時に、いいようのない快感が生まれる。
男相手に脚を開き、男の証である肉棒を受け入れて悦んでいるなんて、冷静に考えれば死にたくなるほどに羞恥を越えた行為だ。男としてのプライドを踏みにじられる、屈辱的な行為だ。
実を言えば、HAYATOとして芸能界に身をおいてから、そうした危機はいくつかあった。なんとか回避はしてきたものの、当然ながらその時は不快以外の何物でもなく、男に触れられるなんて、抱かれるなんて、冗談じゃないと思ったものだ。今だって、それに変わりはない。
けれど相手が音也であるだけでまるで違う。嫌どころか、自分からも触れたいと、そう思う。
それは、自分が彼を好きだからだ。好きだから、こんなに恥ずかしいこともできるし、恥ずかしいことも言える。半ば無理矢理に侵入されている今も、辛いと同時に気持ちいいと感じる。
だから音也が自分の中に入ってくるその瞬間を、トキヤは好きだった。張りつめた欲はトキヤの中で更に大きくなり、それを感じるとトキヤもまた欲を募らせる。
「ん、ぁ……おと……大きっ……」
「は……きつ……けど、気持ちいい……」
根元の一番太いところまでを埋め込み、音也は荒い息の中上擦った声で呟いた。欲情の滲む低い声にどきりとして、トキヤはちらりと音也を見上げる。気付いた音也はにこりと笑い、身を落とすとトキヤの額にキスを落とした。
普段の笑顔とは違う、男の、獣の本能が前面に出ているそれに、体の奥が甘く濡れる。
「まだ、苦しい? ごめんねトキヤ」
「大丈夫、です……から……」
キスの後、音也はトキヤの額に浮いた汗を優しく指で拭った。下半身は容赦なくトキヤを犯しているのに、かける言葉と触れる指は優しい。
アンバランスなそれは一見かけ離れた行為のようでいて、しっかりと繋がっている。繋がっているから、心も体も気持ちいいと悦ぶのだ。
「大丈夫だから……音也……」
「うん」
もう動いて、と言葉にせず腕に触れることで訴えると、音也は目を細めて短く答えた。ちゅ、と唇にキスをしてから、音也は腰を揺らし始める。
「っぁ……あぁ、ん……」
指でかき回され柔らかくなった中は、行き来する音也に従順に反応した。ずっと欲しかったのだといわんばかりに音也の動きを追い、包み込み、締め付ける。
数度繰り返されただけで、そこはぐちゅ、ぐちゅ、と濡れた音をのぼらせた。穿たれた中からは、甘ったるく痺れのような熱が広がっていく。ぞくぞくとした愉悦が全身を駆け巡り、頭の中が白く霞む。
「は……ん、んっ……奥、だめ……」
「奥、トキヤ好きだろ?」
「ひっぁ……っ、」
「ほら、ちょっと出ちゃったね」
ずん、と奥深くを強く突かれ、トキヤはびくんと身を震わせた。音也の言う通り、今の快感で我慢していた欲が先端からとろりと零れている。
可愛い、と吐息で囁き、音也は密を溢れさせたトキヤをやんわりと握った。そうして突き入れるタイミングに合わせ、前も苛め出す。
「や、あっ……おと、おとや、ぁ……」
「は……も、その声だけでイッちゃいそ……。マジ可愛すぎ……」
「ァッ……ぁ、やぁ……」
前と後ろを攻められると、自分でも驚くほど甘くだらしない声が漏れた。恥ずかしい、という思いがないわけではないが、齎される快感に理性は吹き飛ばされる。
「そんな可愛い声出して……何がやなの? それとも、もっと欲しい?」
「違……っぁ、はぁん……駄目……」
ぎりぎりまで引き抜き、音也はずん、とトキヤの内側を荒々しく犯した。ざぁっと音が立つほどの勢いで、強い悦楽がトキヤを襲う。
何が嫌で何が違うのかなんて、もうトキヤにはわからなかった。音也に貫かれ、快楽に包まれ、まともに考えることなんてできない。ただ気持ちよくて、耳に届く音也の濡れた声にドキドキとして、どうでもよくなってくる。
「ね、ちゃんと言わないとわからないよトキヤ」
「ぁん、あっ……おと……」
「言って、トキヤ。お前の好きなようにしてあげる」
優しい声音の中に潜む男の匂いは、いつもトキヤの胸をいやらしくときめかせた。セックスの時だけに見せるその顔と声に、心も体もうっとりと酔う。
自分だけに向けられるそれに、平素は抑えている独占欲が満たされ、ああこの男が好きだと、改めて思い知らされる。
「トキヤ、」
「っ……ぁ……おと、や……ん、もっと」
「もっと、何?」
わざと重ねて訊いてくる声にすらまた感じ、トキヤは潤んだ瞳で音也を見上げた。獲物を捕らえ愉しんでいる獣の顔が、嬉しそうに笑み崩れる。欲に塗れているはずなのに、そこには同じほど愛おしむ光があった。
こんな風に抱き合って見つめあって、想いを交わし合うことができる幸せに、胸がいっぱいになる。罪悪感とか、自分の狡さや卑怯な思いなんて、もうどうでもよかった。
彼に求められ、繋がれる今が嬉しくて、変わらぬ優しさが嬉しくて、いざなう音也の言葉にトキヤは甘える。
「もっと……して、もっと奥まで……たくさん」
「たくさん?」
「……あなたが、欲しい……です」
「……お前ほんと、やらしくて可愛い……」
自分で強要したくせに、音也はうわあ、と呟いて顔を真っ赤にさせた。はぁ、と大きく息をついてから、トキヤの片脚を抱えてずい、と腰を突き入れる。今までにない強さと深さに、トキヤは高い声で啼いた。
「ぁっ……はぁん……深、おと……」
「ごめんトキヤ……っ、ちょっと手加減できそうに……ない……」
「ぁん、ん……っ、は……奥、駄目……あぁんっ……」
体が浮きそうなほど激しく突き入れられ、ぐちゅぐちゅと濡れた音に軋むベッドの音が混ざり合った。息をつかせぬほどの速さの攻めは途切れぬ快楽を与え、怖いほどの気持ちよさにトキヤはぎゅっとシーツを握る。
「だーめ。握るなら……こっち」
「ぁ……」
「ね、ぎゅってしてトキヤ」
シーツを握るトキヤの手を取り、音也は自分の指を絡めた。にこっと笑い強請る声に抗えず、トキヤは同じように指を絡める。熱い手のひらがぴたりと密着し、骨ばった指がトキヤを捉えた。きゅう、と強すぎない力で握られ、触れ合う熱が溶け合う。
「好きだよ、トキヤ。ずっとずっと、一番大好き」
「……っぁ……あ……」
深い声音で囁くそれに、返す間はなかった。最も、同じように言えるかと問われれば自信はない。
これだけいやらしく恥ずかしいことをしていながら、好きという言葉を口にするのは難しかった。与えられるばかりの言葉に返したいと思っても、うまくいった例はない。
だからできることは、握った手に力を込めることだけだった。
好きだと、あなただけにしかこんなことは許していないと、想いを込めて愛おしい人の手を握る。
ほんの僅か、返すように力を込められたのはきっと気のせいではない。深く深く、間に何もなくなるくらい繋がって、隔たっていた心も寄り添った今なら、そう思える。
「っは……おと……も、駄目……です……」
「うん。俺も、もうやばいかも……」
はぁはぁと乱れた息の中、音也もまた限界を口にした。ぐっと体を前に倒し、それまで以上に挿入を深くしてくる。そうしてまた大きく腰を引き、音也はトキヤを追い詰めるように短い間隔で抜き差しを繰り返した。ぐちぐちと粘着質な音が響き、耳までも犯されていく。
「ぁん、ぁっ……駄目、音也……っ」
「……ね、ちゃんと綺麗に洗ってあげるから……中、いい?」
ぐるりと腰を回し、音也は甘えた声で強請った。中をかき回されると、そこは燃えるように熱く蕩け音也をきゅうきゅうと締め付ける。中に欲しいと、体が答える。
「駄目ならやめる。お前の好きにしてあげるって約束だし」
「っ……ぁ、そんなの……訊かない……で」
答えなんてわかっているくせに、音也はわざと耳元で淫猥に囁いた。それだけで、体はまた熱を上げ性器の先端はとろりと濡れる。
はしたない、なんて淫乱な体だろう。自分でもそう思う。けれど、中に出される快感を知ったこの体は、甘い囁きをはねつけることができない。それに、ずっと我慢をさせていた分、彼の好きにさせたかった。
「答えて、トキヤ」
「……中、がいいです」
出して、と消えるような声で紡ぐと、埋め込まれていた音也の欲が更にぐっと大きく育った。広げられ擦られる部分が増え、例えようのない快感に喘ぐ声が揺れる。
「ん、ぁっ、は……ぁあっ、ん……」
「はっ……もぅ、やらしくて可愛すぎ……大好き」
「あっ、おと……や……っ……」
ずん、と奥深くを貫かれ、トキヤは泣きそうな声で大好きな人の名を呼んだ。押し出されるように腰から欲が駆け上り、熱い粘りが性器から迸る。
「……出す、よ」
「っぁ……」
達した快感に身を震わせているトキヤに、音也が短く吐息で告げた。こくんと頷く前に、それはトキヤのとろけた肉をどろりと犯す。
「ん、ぁ……」
広がっていく濡れた感覚に小さく喘ぎ、トキヤは握っていた音也の手を無意識に引き寄せた。吐精の愉楽と音也に汚されている悦楽が混じり、強すぎる快感に言葉が出ない。それを伝えるように、引き寄せた音也の指を頬に擦り付ける。
「なんでそんなに可愛いかな……もぅ」
はあぁ、と溜息に似た息を吐き、音也は頬に触れた手でトキヤを撫でた。ぼんやりとしたまま目を上げれば、困ったように眉を八の字にして、音也がくしゃりと笑う。子供みたいな、けれど愛おしくて仕方がないという想いが溢れたそれに、胸は熱く甘く、じわりと潤んだ。
どこか遠慮をしていた、見えない壁を隔てていた時の笑顔とは違う。彼の本当の、素の笑顔だ。ずっと見たかった、大好きな人の笑顔だ。
「俺がトキヤを嫌うことなんて、絶対ないよ」
「――」
「可愛くて好きすぎて……このままずっと離したくないくらい好き。大好き。でも、だから今までのこと考えたらどうしていいかわからなくてさ」
不安にさせてごめん、と続け、音也は身を落とすとトキヤをぎゅうっと抱き締めた。体だけでなく心までをも抱き締めるそれに、じんと心が震える。温かな何かが、込み上げる。
「……謝る必要はないと……言ったはずです」
音也の背に腕を回し、トキヤは小さく紡いだ。音也の想いが嬉しくて、抱き締めてくる腕が嬉しくて、甘い重みに目を閉じる。
「そうさせたのは、他ならぬ私です。あなたは……悪くない」
「うん。でも、やっぱり言いたいんだ」
すり、とトキヤの髪に頬を押し付け、音也は静かに続けた。
「気付いてあげられなくてごめん。無理させて、ごめん。一人で悩ませちゃって、ごめん」
「……」
「でも、これからは違うから。もう隠すことなんてない。苦しいときも、困ったときも、一人じゃないから」
「音也……」
「俺が、いるから」
顔を上げ、音也はトキヤの手を握るとまっすぐにトキヤを見つめた。
「これからは違うから」とあの日彼が言った真の意味を、トキヤはようやく知る。音也はそれまでのトキヤの苦しみを思って、そしてこれらからのことを考えて、ああ言ったのだ。
「まあ、俺だけじゃ頼りないかもしれないし、皆もいるけどさ」
「……」
トキヤの指に自分のそれを絡め、音也は少し寂しそうに笑った。できれば自分だけが、と思っていたのだろう。自分にだけは打ち明けて欲しかったと、言えなかった本音が触れる指から流れる。
拗ねた嫉妬のようなそれは、トキヤの心を優しく柔らかに擽った。なんて贅沢な、得難い幸せなのか。
裏切りとも言える似た行為で、ともすれば今までの自分たちの関係も、積み重ねてきた時間も、全て失うところだった。それなのに、音也は自分を赦し、更に共に在ることを望んでくれる。
「そうですね。あなただけでは、確かに頼りない」
「ひっど……ひどいよトキヤぁ」
「自分で言ったんでしょう」
くすりと笑ってからかうと、音也はちぇ、と頬を膨らませ、更に唇を尖らせた。すっと頭を上げ、トキヤはその唇に触れるキスを送る。
「っ、トキ……」
「冗談ですよ。とても、嬉しいです」
「……」
「嬉しいです、音也」
ありがとう、と小さく紡ぎ、トキヤは音也の手を握るとそっと静かに微笑んだ。
頼りないなんて、本当は思っていない。少し……いや、大分頼りないところはあるけれど、今までだって自分は彼に救われていたのだ。
HAYATOであることを隠していた間、恋人として一緒にいられる時間は少なかったし、生活にも不自然なところがあったはずだ。でも、音也はトキヤを追究しようとはしなかった。不安も疑いも抱いたことはあっただろうに、好きだよと繰り返し、傍にいてくれた。
HAYATOを演じ続けて心が疲れた時、弱音を吐きそうになった時も、向けられる笑顔に、想いに、救われていた。ありがとうとは、今の発言に対してだけではない。今までの全部に対しての言葉だ。
彼に出会えて、好きになってもらえて、好きになって、こうして今も傍にいられることが嬉しい。
そのままを直截伝えられれば一番なのだが、いざ言おうと思うとやはり照れくさく難しかった。だから、最も近い意味のそれを、トキヤは送る。
それでもトキヤにしは珍しく素直な言葉に驚いたのか、音也は軽く目を瞠り、こちらを見つめたまますうっと頬を赤く染めた。
「もう……トキヤって狡い」
「何がですか、」
「何って……全部だよ全部! 可愛いとこも綺麗なとこもエロいとこも全部!」
「エ……それは余計です」
どさくさに紛れて何を言うのかと、トキヤもまた頬を熱くさせた。想いの一部ではあっても本音を伝えたのに、ごちゃまぜにされては台無しだ。全く、と少し怒った風を装って顔を背けると、音也は抱く腕を強めてずい、と顔を近付けてきた。
「余計じゃないよ。ほんとのことだろ」
「ぁ、……ん、おと、や……」
まだ繋がったままでいる体を揺らし、音也はトキヤの中をやんわりと突いた。落ち着き始めていた快感が呼び覚まされ、トキヤは顔を歪めて小さく喘ぐ。
「ほら。エロくて可愛い」
「ばか……なことを……ん、言ってないで……離れて」
「やだ」
ふふっと意地悪に笑い、音也はちゅっと唇を合わせてくる。離そうと胸辺りを押してはみたが、柔らかなキスと中を混ぜるような腰の動きに、力はすぐに抜けてしまう。ぐち、ぐち、と出された精液が内側で淫猥な音を立て、トキヤはぶるりと身を震わせた。
「っ、もう、これ以上は無理です。駄目……」
「そんなエロい顔と声で言われてもなぁ」
「お、おと……ぁ、っ、だ、いたいあなた課題があったはずじゃ……」
僅かに身を上げて本格的に攻める姿勢を見せてきた音也に、トキヤははっと思い出してそう言った。
すっかり忘れていたが、確か課題があると言っていたはずだ。だが、音也はぱちりと瞬きをした後、あぁあれね、と決まり悪そうに笑う。
「ごめん。あれ嘘」
「嘘……?」
「嘘っていうか、間がもたなくてさ。何か理由作らないと、トキヤに触りたくなっちゃいそうで」
「……」
「だからほんとは課題なんてないんだ。ごめん」
こつん、とトキヤの額に自分のそれをくっつけ、音也は繰り返し謝った。そんな理由からの嘘だとわかって、トキヤに責められるわけもない。つかなくていい嘘をつかせたのは自分で、我慢をさせていたのも自分で、謝るのは、間違いなくこちらだ。
「……明日のレッスンに響いたら、しばらくはしませんよ」
「え……」
「それが嫌なら、ちゃんと加減してください」
こんな言い方は、多分狡い。こんなことで償えることではないことは、わかっている。音也の言ったそれとは違うかもしれないが、やはり自分は狡いのだろう。
けれど、欲しいと想う気持ちは本当だ。この温もりをまだ離したくないという思いも、本当だ。
「それって……していいってこと?」
「ちゃんと加減ができるなら……」
「する。ちゃんとする。お風呂にも連れてってあげる!」
「ですからそれは遠慮すると……、ん……」
がばっと顔を上げ、音也は浮き浮きした声で嬉しそうに笑うと釘を刺すトキヤを遮るように唇を奪った。もしかして今のはうまくはめられたのだろうか、と思うが、だとしてももう遅い。
一度貼りついた一十木音也を引き剥がすのは、本当に難しいのだ。
「トキヤ好き。大好き」
ちゅっちゅっと唇だけでなく顔中にキスを降らし、音也はいつものそれを躊躇いなく口にする。今夜だけでも数えきれないほど聞かされたのに、その度に胸は性懲りもなくきゅうと甘く締め付けられた。
ここ最近は遠ざかっていた、ずっと聞きたかった、欲しかった言葉だ。もう聞けないかもしれないと、覚悟をしていた言葉だ。何度囁かれたって、飽きたりなんてしない。むしろ、もっと聞きたいすら思う。また聞ける幸せに、体の芯がじんと潤む。
私も大好きです、と言おうかどうか。迷っているうちに唇は柔らかく奪われ、離れた時には嬌声がそれに取って代わった。ゆっくりと深く、強く、体と想いが絡み合って溶けていく。阻む後ろめたさも不安も、もうどこにもない。あるのは泣きたくなるような幸福感だけだ。
きっとこの夜こそが、本当の意味で繋がることのできた初めての日になる。
2012/03/31PixivにUP・4/10再掲
長くなってしまいましたがこれで終わりです。
より愛が深まってよったね!というだけの話でした。
HAYATOバレの付近はまた色んなパターンで書いてみたいところです。
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