恋の歌を君と歌おう<前編>(途中部分抜粋2)


本当は、音也と体を重ねたかった。キスだけでなく、心と体両方を繋げたいと、ずっと思っていた。片思いのままでかまわないと思いながら、捨てきれない期待を抱いていた。だから音也の誘いに頷いたのだ。
どうせ彼の心にもう昔の自分はいない。性処理の対象としてしか、思われていない。それならば、最後のその望みくらい叶えてもいいではないか。
トキヤ以外に付き合った相手はいない、トキヤにしか反応しない、という言葉に、言いようのない喜びまで感じた自分は、きっと最低の人間だろう。
半年と言わず、続けられるだけ続けてほしいと言ったら、音也はどんな顔をするだろう。トキヤの想いなど知らないから、ただの好き者だと思うだろうか。もう既にそう思っているかもしれないが。
「は、ぁっ……おと、や……っ、駄目……」
「何が? 気持ちよくない?」
「ぁっぁっ、ぅん……」
トキヤの胸を弄りながら、音也は昂ぶりを刺激する力を強めていた。根元から先端までを擦るように、下着の上から脚を動かす。
摩擦と性器自体が持つ熱が上がり、半勃ちだったそれは完全に固く大きく育った。じわり、と先走りが先端に滲み、布地を濡らす。
「ほら、濡れてる。気持ちいいんじゃん。トキヤって、こんなやらしい体してたんだ。俺全然知らなかったよ」
「違……ァッ、ん……は……」
ぺろりと喉元を舌で舐め、音也は首筋に顔を埋めた。ちゅう、と少し強めに吸われる感覚と、ふわりと鼻に届く音也の清潔な香りに胸はとくんと鳴る。
言葉で辱められることは初めてではないけれど、相手が好きな人であればそれは甘美な快感を齎すのだろう。
音也の腕に抱かれ、音也の香りに包まれる。それはトキヤにとって、紛れもない幸せだった。中身の伴わない形骸だけの幸せでも、何もないよりはましだ。
「違うなら教えてよ。どこをどうされるといいの? 例えば……こういうのはどう?」
「そんな、こと……ぁ、ん……」
ちゅう、と指で弄っていた乳首を唇で吸い上げられ、トキヤはぎゅっと目を閉じた。温かい唇と舌が触れ、皮膚を濡らし、敏感な突起を吸引する。ぞくぞくと背を昇る甘い快楽は下半身へも広がり、そこはまた蜜を零した。
「あぁ、これ好きなんだ? じゃあもっとしてあげる。両方一辺に弄ったほうが気持ちいいよね?」
「や……ァッ、はっ……おと、やぁ……」
右を指で、左を唇で含み、音也はトキヤの胸を左右同時に犯した。痛いくらいの愛撫に乳首がじんと熱く痺れ、緩く擦る音也の脚に、自ら腰をすり付けてしまう。
「そんな声で呼ばれると興奮するな。ねえトキヤ、もっと呼んでよ。あぁでも、この建物壁が薄いから聞こえちゃうかな」
「っ……」
「夜だから静かだし、何してるかバレちゃうかもね」
悪い顔で笑い、そう言いながら音也はまた強く胸を吸った。唾液が肌を流れるくらいにしゃぶり、時折歯で虐め、密着した腿で円を描きながらトキヤの欲を攻める。
「はっ、ぁ……やめ……んっ、ん」
「あれ、口塞いじゃうの? でもまぁ仕方ないか。次はラブホとか、声出せるところですればいいしね」
音也の発言にさあっと血の気が引き、トキヤは出てしまう喘ぎを止めようと口を手で覆った。音也は少し残念そうな声を出したが、すぐに頑張って我慢してね、と邪気のない顔で笑い、行為を続ける。
普段見せる彼特有の、周りを明るくする笑顔のはずなのに、今は何故か少し怖く感じた。怖い、とは違うだろうか。見たことのない音也を目の当たりにして、戸惑っているだけかもしれない。
「んぅ、んっ……んー」
「乳首真っ赤になるまで舐めて噛まれて……それが気持ちいいんだ? パンツ、もうぐちょぐちょになってるよトキヤ」
「っ、ん……ぅ……」
カリ、と乳首を強く噛み、音也は熱い息をトキヤの肌に吐いた。音也の言う通り、下着は溢れた先走りを吸い取り、べっとりと張り付くくらい濡れている。
「もう脱ぎたい? ここ、ちゃんと触って欲しい?」
「は……もぅ……苦し……」
僅かに上体を起こし、音也はトキヤを覗き込んだ。肩で息をしながら、トキヤは覆っていた手を外す。すかさず音也の唇がそこへ降り、トキヤは呼吸ごと奪われるように口付けられた。舌が口腔を荒らし、唾液をかき混ぜ、それに絡ませるように音也の唾液を流し込まれる。
付き合っていた時も深いキスをしたことはあったが、ここまで激しいものではなかった。互いに探り合うように、ゆっくりと緩く舌を絡ませ合う。そんな柔らかな優しいキスが大半で、トキヤはそれがとても好きだった。
けれど今のキスも嫌なわけではない。むしろ求められていると感じられて、嬉しい。
「どうする? 下も脱ぐ?」
「……は、い……」
ちゅう、と音を立てて唇を吸ってから、音也は低く囁いた。乱れた呼吸の中小さく頷くと、音也はすっと起き上がり、トキヤから完全に離れる。
「あの……」
「脱ぎたいんでしょ? じゃぁ自分で脱いで?」
「え……?」
てっきり脱がされるのだと思っていたトキヤは、音也の発言に目を見開いた。そんなトキヤに構わず、音也は腕を引いて起き上がらせると、更に予想外のことを言い出す。
「自分で脱いで、自分で触って、お尻もトキヤが自分で解してよ。俺初めてだからどうしていいかわかんないし。お前だって痛いのは嫌だろ?」
「そん……な……そんなこと、できません」
何を言い出すのかと、トキヤはかっと全身を熱くさせて拒絶した。音也の目の前でそんな真似をするなんて、想像しただけで恥ずかしさに消えたくなってくる。
だが、音也は手を出す気はないのか、距離を保ったままじっとトキヤを見つめた。
「できないこと、ないだろ? そういうこともさ、したんじゃないの?」
「……」
「少し勘違いしてるみたいだから一応言っておくけど、俺とお前はただのセフレになるわけじゃないよ? 償ってって、俺言ったよね」
「それ、は……」
改めて言われてみて、トキヤは自分が思い違いをしていたことに気付いた。そうだ。これは一見対等な関係に見えて、その実は異なる。
トキヤは彼に償う為に、この関係を受け入れたのだ。失念していたそれを突きつけられ、胸がずきりと痛む。
「わかったら、やって? ちゃんと解さないと怪我するって聞いたことあるし、俺はそういうことしたいわけじゃないから。気持ちよく、なりたいだろ?」
「…………わかり、ました……」
ごくり、と唾を飲み込み、トキヤはそれを了承した。正直なところ、確かにそういうプレイを強要されたことはある。ただ、それはもう一種の仕事と捉えていたから、屈辱はあっても羞恥など感じなかった。
けれどこれは違う。相手は好きな人だ。ずっとずっと、好きでいた人だ。その目の前で自身のいやらしい、はしたない姿を曝すなんて、恥ずかしいし悲しいし、泣きたくなってくる。それでも音也が望むなら、やるしかない。
「ちゃんと見えるように、脚開いて」
「……はい」
膝を曲げ下着を取り去ると、トキヤは言われるまま脚をM字に開いた。性器は闇の中で光るほどに濡れていて、触れると熱い湿りが指を汚した。両の手で根元を握り、ゆっくりと上下に動かし始める。
「ん……ぁ……」
布越しの愛撫で散々焦らされたそこはひどく敏感になっていて、少し扱くだけで甘い声が漏れた。くちゅ、くちゅ、と水音が立ち、手の中の欲は熱を上げ、唇から漏れる息もあがってくる。
一番刺激を求めている括れから先端を片方の指で輪にして擦ると、ぞくりとした快感が腰から全身にへ広がった。とろり、とまた透明な体液が流れ、下の茂みと肌を濡らす。
「ふ、んっん……は……ぁっ、ぅ……」
「やらしい顔……目がとろんとして、口からは涎が垂れて……いやらしいのに、可愛い」
「ん……」
ずい、と身を乗り出し、音也は時トキヤの膝を掴むと緩んで濡れた唇を吸った。強弱をつけた口付けは自慰の心地よさに重なり、手は自然とその動きを早める。
「まだイッちゃ駄目だよ」
「あぅ……ぁっ……」
トキヤの手を止めるように上から握り、音也は先端をぐりっと指の腹で押さえた。急に手を押さえられ、昇りかけていた欲は行き場を失う。
「は……おと、や……んで……」
「後ろ、解してないだろ? そっちが先だよ。ほら、もうこんなに濡れて……ひくひくしてる」
「ァッ……」
奥に手を差し込み、音也は後孔をゆるゆると撫でた。して見せて、と耳元で囁かれ、トキヤはそろそろとそこへ自分の手を伸ばす。
「こんなにちっちゃいのに、ほんとに挿入るのかな」
「……あまり、見ないでください」
「恥ずかしい? でもそのほうが感じるんじゃないトキヤ。さっきめちゃめちゃ気持ちよさそうだったよ? ほら、もっと脚開こうね」
「や……」
ふっと口元だけで笑み、音也はトキヤの臑を掴むとぐい、とそれまで以上に開かせた。そうして覗き込むように頭を落とし、して、と命令する。
体の恥部を息がかかるくらい間近で見られ、トキヤは耐えきれずぎゅっと目を閉じた。見られたほうが気持ちいいなんてあるはずがないと思っても、体が異常に興奮しているのは自分でもわかる。
恥ずかしいのに、それが快感へと繋がる感覚は、初めてのことだった。やはり相手が音也だから、なのだろう。早く音也を受け入れたいと、心も体も望んでいる。
「ぅ……く……」
性 器から零れた先走りを絡め、トキヤはゆっくりと閉じている窄まりへ差し入れた。長い間何かを受け入れることをしていなかったそこは、僅かに押し戻し抵抗を 見せる。だが、幾度か抜き差しを繰り返すうちに、孔は柔らかく熱くとろけていった。ぐち、ぐち、と卑猥な音を立て、蕾は徐々に開き始める。
「ん、ん……っ、は……」
「……気持ちいいんだ?」
「ぅ……は、い……」
後ろを慰め喘ぎ出したトキヤに、音也はやや意地悪く訊いた。淫乱、と言われているようで胸が苦しくなりながらも、トキヤは正直に答える。
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