それはきっと幸せな悩み(途中部分抜粋2) |
外は夕暮れ間近で、部屋はまだ少し明るい。こんな時間からはしたない、という気もなくはなかったが、せっかくのオフなのだからこんな日があってもいいと心は欲に甘えた。 ようやく繋ぎ合った手を、心を、離したくない。 「えっと……HAYATOって呼んでいい……?」 「……うん。音也くん」 「っ……!」 腰を抱かれて囁かれ、トキヤは声のトーンを変えるとにこっと笑いかけた。その途端、音也はばばっと音がするほどの勢いで顔を赤くして絶句する。 HAYATOのキャラクターなどわかっていただろうに、心の準備が追いつかなかったのだろうか。だが一度始めてしまえばもう自分はトキヤではなくHAYATOだ。音也のそんな動揺にも、HAYATOとして接する。 「どうしたのかにゃぁ音也くん? お顔が真っ赤だよ?」 「いや、えっと……すごく可愛くてびっくりして……ごめん。大丈夫」 胸を押さえて呼吸を整えるように肩で息をしてから、音也は再びトキヤに向かい合うと体を抱き寄せた。さらりとトキヤの前髪をすき、額から瞼、頬を通り唇にキスを落とす。 「ん、ぁ……」 「……HAYATOは、俺とキスするの好き?」 「う、ん。……好き」 ちゅ、 ちゅ、と小さな水音を立てて舌を絡めつつ、音也は普段訊かないようなことを訊いてくる。もちろん普段ならトキヤも答えはしないが、今はHAYATOだ。何 事にも素直で、感情を隠さず、甘えたがりの性格だから、訊かれれば従順に答える。従順どころか、むしろ積極的といえるかもしれない。 するりと出た 言葉に自分でも少し驚きつつ、トキヤは不可思議な解放感を味わっていた。トキヤ自身とは違うけれど、偽りというわけでもなく、HAYATOを通して自分の 心を出していける。恥ずかしさもなく、言えなかったことも言えてしまう。うまく甘えられなかったことも、甘えられる。 「もっと、して? ボクもするから……」 「ん、……すげー嬉しい。今日はHAYATOが好きなこと、全部してあげるね。だからちゃんと教えて?」 「うん」 まだ戸惑いながらも慣れてきたのか、音也も普段以上に甘えた声でトキヤの頭を撫でた。キスをしながらトキヤのシャツを開き、平らな胸に手のひらを這わせる。 温かな手が撫で回すようにして動き、指が小さな突起を捉えると、トキヤはびくんと身を震わせて僅かに声を漏らした。 「HAYATOは……おっぱい弄られるのも好き?」 「……好き」 「どんな風にされるのがいい? 指でこう、するのと」 「ひぁっ……ん……」 「唇で、ん……こうしてちゅうって吸われるの」 「ぁっぁっ……」 片方の乳首を指でぐりぐりと捏ね、もう一方を唇で挟んでちゅうちゅうと音也は吸う。両方一辺に攻められ、トキヤはぎゅっと手を握って声を抑えず喘いだ。 「両方……好き、好き……ぁん、ぁ……」 「は……めちゃめちゃ可愛いHAYATO……。両方たくさんしてあげるから、自分でおねだりしてみて?」 「えっ……」 「どこを、どうされたいんだっけ?」 「ぁんっ」 カリ、と乳首を軽く歯で噛まれ、トキヤは全身を熱くさせて鳴いた。調子に乗って、とほんのりトキヤの思いが頭をもたげたが、もちかけたのは自分なので怒ることはできない。 今はHAYATO今はHAYATO、とそれを押さえつけ、トキヤは口元に握った手を寄せると甘えた声を出した。 「ん……おっぱい、もっと強く指で弄って欲しいにゃぁ。音也くんに舐めてもらうの大好き。たくさんして?」 「うん。たくさんしてあげる」 「ぁ……」 はぁ、と興奮した息を吐き、音也はトキヤを押し倒した。のしかかる体の重みが心地よくて、トキヤも熱い息を吐く。 行 為が進むにつれトキヤの時でも似たようなことを口走ることはあるが、使う言葉が違うだけで感覚も異なった。いつもは「おっぱい」なんて言わないのに今日に 限って使うのは、トキヤに言わせたいからなのだろう。HAYATOであるから言えるけれど、トキヤ自身であればどう頑張っても難しい。でも、HAYATO であると思うと、抵抗なくそれは口に乗った。 自然に出る甘えは、音也が言うように秘められていた自身のものなのかもしれない。HAYATOの中に、確かに自分も息づいていたのだと、セックスによって知らされる。 体も心も曝し合う行為だからこそ、それに気付けたのだろうか。いや、そんな理由など、今はどうでもいいことだ。自分がしたいように、音也が望むように、抱き合えばいい。 「ん、ん……」 片方の突起を指で押し潰しながら、音也はトキヤの唇を吸った。弄られている側の体はじんと熱く痺れ、舌で口腔を荒らされると、頭の中がとろりと溶けていく。 「ん……音也くんの唾液……飲みたい」 「俺も……HAYATOの飲みたいな」 「は、ぅ……ん、ん……」 とろとろと熱い唾液を流され、トキヤはこくこくと飲み下した。お返しに自分のそれを送れば、音也も吸い上げて飲んでくれる。 角度を変えて何度もキスを繰り返すと、互いの唾液は唇の端から溢れて零れた。それをぺろりと舌で舐め取り、音也は顎から喉元に唇を這わせる。ちゅうちゅうと所々強く吸われ、心地良い痛みにトキヤは小さく喘いだ。 「っ、痕は……つけちゃ駄目、だよ音也くん」 「大丈夫。軽くだから。それとも、嫌?」 「んっ、嫌……じゃないにゃ……。気持ちいい。好き」 「じゃあさせて? HAYATOのこと、もっと気持ちよくさせたいんだ」 「う、ん……っ、は……して、ほしいにゃ……好きな、だけ」 「うん」 指でさらりと耳裏を撫で、音也はトキヤの首筋を一際強く吸った。アイドルでなければ、明日の仕事がなければ、どこにだって痕をつけて欲しい。 それはHAYATOでなくトキヤとしても度々思うことだった。そんな仮定に意味なんてない。ないけれど、本当はキスマークをつけられるのが好きなのだと躊躇いなく今は言える。伝えることが、できる。 「は、ぁっ、ぅ……」 ちゅっちゅっと肌を啄んで降りていった唇は、再び胸の突起へと舞い戻った。左を指先で、右を歯で掠められると、高められていた熱が下半身の奥からせり上がる。 「おっぱいだけで、固くなっちゃってるねHAYATO」 「ぁん、ぁ……って……気持ちいいんだも……」 熱く昂ぶりを見せている中心を、音也は太股でぐいぐいと刺激した。じわ、と先端が先走りで濡れていくのが自分でもわかる。はっはっ、と短く呼吸を繰り返し、トキヤはいやいやをするように腰を捻った。 「も、きついにゃぁ……早く……」 「早く、なぁに?」 「……早く、脱がして……そこも触って……」 「……おねだり上手だね、HAYATOは」 甘えた声で強請ると、音也はとろりと目尻を下げて嬉しそうに笑った。ちゅっちゅっとトキヤの唇を吸ってから、体を起こしてベルトに手をかける。 かちゃかちゃと外される音はさすがに恥ずかしく、トキヤはぎゅっと目を瞑った。これから犯されるのを喜んで待ち望んでいるようなこの瞬間は、HAYATOになりきっていても少し居心地が悪い。嫌なわけではなく、ただひたすらに恥ずかしいのだ。 脱がされることを受け入れていることも、そこを見られることも、早く挿れて欲しいと、本当は思っていることも。 「ふふ。もうとろとろになってる。えっちな体」 「……音也くん、えっちなの、嫌?」 「……大好きだよ」 「あっ……」 最後の布を取り払い、音也は即答すると勃ち上がっているトキヤの性器を指で捉えた。蜜で濡れている窪みに指の腹をあて、くるくると悪戯をするように動かす。 「はぁん、ん……もっと……強く……」 「ん、こう?」 「ひぁっ……ぁ、う、ん。それ、気持ちいい、にゃ……」 ぐっと窪みを強く擦られ、同時に根元から扱かれ、トキヤは腰をびくんと揺らした。甘い電流が下半身から広がり、先走りがまたとろりと溢れる。 ぬちぬちといやらしい音を立てて手淫を施されているそこを、トキヤはちらりと薄目で見やった。大きく脚を広げさせられ、恥ずかしい部分をさらけ出し、そこは男の手に……音也の手に包まれて涙を零している。嬉しそうに、ひくひくと震えている。 なんてはしたない、けれど正直な体だろうかと、恥ずかしさに体は火照った。HAYATOになっていることを隠れ蓑にしているが、ここまで口にした全ては事実だ。トキヤの言葉で、トキヤの欲望だ。 いつもはできるだけスマートに見せたいと意地を張っているけれど、抵抗なく素直になることで自分自身の望みまでもが詳らかになっていった。それでも音也はそんないやらしいトキヤを喜んで受け入れ、今も体を愛してくれている。 「ぁっぁっ……ん、おと、やくん……っ」 「何? そろそろ口がいい?」 「ちが……ううん。それも、だけど……」 すす、と開いていた脚を寄せ、トキヤは音也の体を挟んだ。いつもは大体、音也は手淫から口淫へと変え、トキヤの体を拓こうとする。だが、せっかくHAYATOなのだからと、トキヤはそれを止めた。 せっかくHAYATOなのだから……自分だけでなく、音也にも気持ちよくなって欲しい。HAYATOとして、トキヤではなかなかできないことを、してやりたい。 「音也くんのここ、ボクも舐めたい」 「えっ……」 「駄目?」 音也の股辺りに足先を乗せ、トキヤはちらりと上目遣いで見た。HAYATOの言動に慣れたと言っても、それは音也のリードの上のもので、トキヤからのアクションにはまだ免疫がついていないのだろう。明らかに動揺した顔で、音也は目を見開いた。 トキヤとして、音也の性器を口で愛撫したことがないわけではない。それくらいはある。だが、ここまではっきりと求めたことはなかった。そんな欲情丸出しのことを、トキヤの理性がよしとしなかったからだ。 けれど、したくないわけではない。されるばかりの受け身ではなく、自分だってたまにはしたいときもあるのだ。彼を直截愛したいと、思うこともある。 「駄目……じゃない、けどっ……」 「……じゃあ、させて?」 「う……」 むくりと起き上がりシーツに手を置いて身を寄せると、音也は顔を赤くして言葉に詰まった。そうしてはぁ、と大きく息をつき「HAYATOって凶悪」と呟いてちゅっと目元にキスをする。 |